本店所在地を自宅にする前に|住所は公開され、動かすと3万円

資本金も会社形態も決まった。次に登記申請書へ書くのが本店所在地です。 ここは「とりあえず自宅」で通してしまう人が多いのですが、登記した住所は誰でも取得できる書類に載り、 あとから変えると3万円かかります。 先に知っておけば避けられる話なので、判断材料だけ先に置いておきます。

自宅にすると、住所が誰でも見られる

本店所在地は登記事項です。そして登記事項証明書(登記簿謄本)は、 手数料さえ払えば誰でも、理由を告げずに取得できます。 取引先も、競合も、まったくの他人も同じです。

つまり自宅を本店にするというのは、自宅の住所を公開するのとほぼ同じ意味になります。 法人番号公表サイトにも商号と所在地が載り、検索でも出ます。 BtoBで名刺交換をする仕事なら気にならないかもしれませんが、 個人名で発信する仕事、たとえばライターやコンサルタント、 オンラインで不特定多数に売る仕事では、ここを嫌う人が多いです。

「バレなければいい」と考えて実体のない住所を書くのは避けてください。 本店所在地は正確に登記する必要があり、虚偽の登記は過料の対象です。 隠したいなら、隠せる住所を正規に借りるのが筋です。

賃貸だと、そもそも使えないことがある

賃貸マンション・アパートの契約書は、用途を「住居専用」と定めていることが多く、 その場合は事業所として使うと契約違反になります。 登記だけならバレないという話ではなく、契約上できないことをするという話です。

分譲マンションでも、管理規約が住居専用になっていれば同じです。 持ち家の戸建てなら基本的に自由ですが、 住宅ローン控除を受けている場合、事業用に使う床面積の割合によっては 控除額が調整されることがあります。

まず自分の契約書と管理規約を読む。これが最初の一手です。 読んで駄目そうなら、大家や管理会社に確認する前に、 次の選択肢を見ておいたほうが話が早いです。

あとで動かすと3万円かかる

本店所在地を変えるには本店移転登記が必要で、登録免許税がかかります。 金額は移転先が同じ法務局の管轄かどうかで変わります。

3万円

同一の法務局管轄内で移転する場合

6万円

別の管轄へ移転する場合。旧所在地と新所在地の両方に申請するため2件ぶん

2週間

移転日から登記申請までの期限

司法書士に頼めばこれに報酬が乗ります。 設立時に迷って「とりあえず自宅、あとで移せばいい」と決めるのは、3万円のオプション料を払って判断を先送りしているのと同じです。 3万円で済むなら安いと考えるのも、それなら最初から決めておくと考えるのも、 どちらもありです。ただ、金額を知らずに先送りするのはもったいない。

期限を過ぎて申請すると登記懈怠になり、代表者個人に100万円以下の過料が科される ことがあります(会社法976条1号)。引っ越したら2週間、と覚えておいてください。

3つの選択肢を並べる

現実的な選択肢は3つです。月額の相場と、それぞれが何を解決して何を解決しないかを並べます。

01

自宅

0円
  • 追加費用がまったくかからない
  • 郵便を取りこぼさない
  • すぐ決められる
  • 住所が登記簿・法人番号公表サイトで公開される
  • 賃貸・分譲だと契約や規約で使えないことがある
  • 引っ越すたびに本店移転登記が必要

向く人持ち家で、来客がなく、住所公開に抵抗がない人。とくに一人で完結する仕事。

02

バーチャルオフィス

月1,000〜5,000円
  • 自宅住所を出さずに済む
  • 都心の住所を安く使える
  • 郵便転送が付く。プランによっては電話番号も
  • 席は無い。作業場所は別に要る
  • 同じ住所を多数の会社が使う
  • 許認可・銀行口座で不利になる業種がある

向く人自宅を出したくないが、事務所の実体は要らない人。オンライン中心の商売。

03

レンタルオフィス/コワーキング

月1〜5万円
  • 実際に使える席や個室がある
  • 受付・会議室があり来客に対応できる
  • 許認可で実体を求められても通りやすい
  • 月額が一桁上がる
  • 拠点の場所に縛られる
  • 個室だと相場はさらに上

向く人人と会う、または実体のある事務所が要る業種。将来人を雇う予定がある人。

バーチャルオフィスは月額の幅が広く、 安いプランは住所と郵便転送だけ、上のプランで電話番号や会議室が付く、 という組み立てが一般的です。法人登記に使えるかはプランによって違うので、「登記可」と明記されているかを必ず確認してください。

席も使いたい、来客もある、という場合はレンタルオフィス側です。 バーチャルオフィスのプランを持っている事業者も多いので、 最初は住所だけ借りて、必要になったら席のあるプランへ上げるという移り方もできます。 同じ事業者の中で移れるなら、本店所在地が変わらないので移転登記も要りません。

許認可と銀行口座という例外

ここまでは「どれでも選べる」前提でしたが、 業種によっては選択肢が最初から絞られます

人材紹介業(有料職業紹介)、宅地建物取引業、建設業、古物商、士業などは、 許認可の要件として事務所の実体を求められることがあります。 独立した区画があるか、他社と共用していないか、といった基準です。 バーチャルオフィスでは通らない、あるいは追加の説明が必要になるケースが出ます。 自分の業種に許認可があるなら、住所を決める前に要件を読んでください。

銀行口座の開設も同じ方向の話です。 法人口座の審査では事業の実体が見られ、 バーチャルオフィスであることが即座に否決になるわけではありませんが、 事業内容の説明をより丁寧に求められることはあります。 実体を示せる資料――契約書、Webサイト、事業計画――を用意しておくと通りやすくなります。

結局どう決めるか

順番に潰していくのが早いです。

  • 許認可が要る業種かを確認する。要るなら要件を先に読む。 ここで実体が必要なら、レンタルオフィス以上が確定します。
  • 賃貸契約・管理規約を読む。住居専用なら自宅は消えます。
  • 住所を公開して平気かを決める。 平気で、上の2つも問題なければ自宅で十分です。追加費用ゼロが一番強い。
  • 嫌なら、席が要るかどうかでバーチャルオフィスと レンタルオフィスを分ける。要らないなら安いほうで構いません。

住所が決まれば、あとは登記に必要な費用の計算だけです。費用計算ツールに資本金と会社形態を入れると、定款認証・登録免許税を含めた法定費用が出ます。 会社形態をまだ決めていないなら株式会社と合同会社の比較から先に読んでください。

本店移転登記の登録免許税は登録免許税法別表第一(同一管轄内3万円、管轄外は 新旧2件で計6万円)、申請期限と過料は会社法915条・976条によります。 許認可の要件は業種と自治体で異なるため、必ず所管の窓口でご確認ください。 本記事は一般的な情報の整理であり、個別の法務・税務の助言ではありません。